2004年9月のカルテ

  「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」J.K.ローリング作 松岡佑子訳 静山社
 
 ご存知、ハリーポッターの第5弾。出版界の歴史をまたまた大きく塗り替えました。初版270万部という、物凄い数。ポッタリアンは普通、速攻で買うよ?そんなに印刷しちゃって大丈夫なの?って程の数ですね。

 え~、お楽しみにしている方の為に、敢えて内容は書きません。
ただ、今までの児童文学を抜け出して、大人でも充分に楽しめるミステリーに仕上がっていて、読み応えあります。
上下巻2冊セットでしか売り出さず、4000円と言う高額な本なのに、どんどん売れているらしい。それ程、愛されている内容なのだろう。
小学生にはまだ、内容がわかりづらいかもしれません。それほど、複雑な人間関係と心象風景が描かれています。
 ただ、1巻からず~っと読んでいないと内容がわからないですよ~。



  「子供の為の世界の童話」
世界の児童文学の名作、「青い鳥」「くるみ割り人形」「クリスマス・キャロル」「賢者の贈り物」「ピーターパン」「真夏の世の夢」の6作品を収める。
 子どもの頃、一度は必ず手にした本だろう。ただ、絵本も多く出版されているので、きちんとした訳本を読んで見たいこの頃。
できれば、絵でなく、活字としてもう一度味わいたいと思います。



  「西の魔女が死んだ」 梨木香歩著 新潮文庫

 大人の為の童話だな。これが第一印象。この題名の暗いイメージを打ち破る、内容は繊細な子どもの心を描いた秀作。題名に「死んだ」という言葉を使うこと自体が少し、いや、大分変っていると思うけれど、作者は案外、その辺りも計算して付けた題なのかもしれません。
 小学校高学年以上なら読める、ファンタジーです。スローライフをやってみたい、そう言う気持ちになれますよ!!




「こころ」 夏目漱石著 新潮文庫

 自分の心の潜んだ「魔」の故に親友が自殺した。
それを、「先生」は、生きている間中引きづり続けてしまった。「わたし」に会う事がなかったら、その教訓を誰に伝えるでもなくただ、意味無く死んでいったに違いない。「私」にその心のあり方を洗いざらい手紙にしたためる事で、無駄な「死」を選ばずに済んだと思いながら命を断ったのだろう。
 「こころ」の持ち方一つで、善人にも悪人にもなれる、人間とは本当に哀しい生き物だと思わざるを得ない。




  「沈黙」 遠藤周作著 新潮文庫

 神の為に生きるのか?人の為に生きるのか?ミッションスクールで毎日聖書を読んでいた私にも、たった一つ、解からない事が頭を離れなかった。
苦しい時、哀しい時、つらい時、人は神に祈る。でも、神は「沈黙」したまま、何も答えてくれない。
 クリスチャンである作者の遠藤周作氏も、きっと同じ疑問を持った事があったのだろう。
 イエス・キリストでさえ、その死の間際にこうつぶやいたのだ。「エロイ・エロイ・ラマ・サバクタニ」(主よ何故、私をお見捨てになるのですか)
今もってクリスチャンになり得ない私は、日々の祈りと共にこの言葉をつぶやく。



  「老人と海」 ヘミングウェイ著 福田恆在(つねあり)訳 新潮文庫

 ひねくれものの私は、かつて読んだはずの名作を読み直しています。「老人と海」。これまた、古典的文芸作品ではないですか!
 死闘の末、ようやく捉えた大きなメカジキを鮫に次々と襲われて、結局、「肉」の部分を皆、失ってしまう老人。「わしが若かった頃は」が口ぐせの老人は、命をかけて釣り上げたメカジキを鮫に殆ど奪われ、体力をも奪われ、しかし、村に無事、たどり着く。少年が老人の世話をしながら、「教えて貰わなければならないことがたくさんあるのだ」と言って、励まし、また、実際、教えて貰いたそうだ。
 この少年の存在に私たち読者は、安心感を覚える。
それは、年老いた老人を馬鹿にするでなく、自分の知識の一部としようという、若者の心意気をそこに見るからである。



  「救命センター当直日誌」 浜辺祐一著 集英社文庫
 東京大学医学部という、日本最高学府を卒業し、下町の救命センターに籍を置く、浜辺先生の生き方はかっこいい。血なまぐさい戦場のような救命センターにて起こった出来事を実に冷静な目で判断してその激務をこなしてゆく。
 しかし、このエッセイ集には「死」に直面するのがあまりに多い救命センターの医師で居ながら、「暗さ」が全く感じられない、実に軽快で粋な文章なのである。
 さて、私が倒れて救命センターに運ばれたとしたら、是非浜辺先生に診て頂きたいものだ。先生は、「来るな!」と言いそうだが。



  「ゼロの焦点」松本清張著 新潮文庫
 松本氏の作品は、はまったら泥沼のように足を抜け出せなくなる。それ程の筆力で読者をぐいぐいと引っ張ってゆく。何気ない仕草から浮かび上がる種、種、種。ミステリーの醍醐味を味あわせてくれる。多分、どの本を読んでも「ハズレ」は、無いだろうな。  


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